2023年10月

ほつれ

柏柳 明子

• 立秋やまつすぐ残る魚の骨
• 天気予報ちらりと見つつ盆用意
• 秋蟬や弁当の具の縮みたる
• 踊り終へし髪のほつれの黄金色
• 塩振れば星のかがやき月見豆

深川

宮本 佳世乃

• 町中の水の爆ぜたる祭かな
• 護送車の中は空つぽ神輿過ぐ
• 深川の蟬の穴へと落つる雨
• 揉み上がる神輿よ空が幾重にあり
• オレンジの帽子を目指し祭笛

芸術論

山岸 由佳

• 日盛の岩に隠れてしまふ膚
• 蜘蛛の囲のひかりの誰もゐない橋
• 芸術論のコピーの翳りサルビアの青
• 向日葵やひとりきりなる夜の菓子
• 壁に絵の掛かりプールのホイッスル

クレー

伊藤 俊昭

• 招き猫の銀色の目や走り梅雨
• 癒やされるクレーの蒼や雲の峰
• 戦語る公園ベンチ夏の月
• 白旗の白旗神社青嵐
• ボロボロの枕頭の書や楸邨忌

花でいご

青木 このみ

• 向島の今も花街水を打つ
• 咲き満ちて沖縄いろに花でいご
• 決められし己の高さ星飛べり
• 背伸びせし子らの束子や墓洗ふ
• 夏足袋に生きる一葉文机

白南風

元川 よしひろ

• まつ白な俳句手帳の溽暑かな
• 白南風や弥勒菩薩の指の先
• 青時雨病院行きのシャトルバス
• 東雲の二羽の白鷺柳瀬川
• 濃紫陽花玄関扉二重鍵