2025年度 炎環四賞
第二十九回 炎環賞 受賞作
風知草
百瀬 一兎
- はつふゆや妻に妊娠告げられし
- 一杯の葛湯分け合ふ風の夜
- 蜜柑むく香りよ妻のお腹に子
- 祈禱待つ畳の清し冬雲雀
- 冬萌や祝詞に妻の名のありし
- 待春の幣やコノハナサクヤヒメ
- スマホ消音つはりの妻の寝る寒夜
- 雪やなぎ胎動あると妻の言ふ
- 婦人科の水槽きらら春の空
- きさらぎの妻のわがままを愛す
- お互ひの視野にお互ひ春灯し
- 父親になること蝌蚪の騒ぐこと
- 星涼し逆子に眠りをる胎児
- ベビーベッドの発送通知アマリリス
- 帝王切開つひに決まりし葵かな
- 臨月のふくらみゆたか緑の夜
- 見送りを終へし独りの旱かな
- 手術中妻へ麦茶を買ひにけり
- 長椅子涼し産声を待つあひだ
- 陽の色に産まれしわが子風知草
受賞のことば
このたびは第二十九回炎環賞をいただき、誠にありがとうございました。石寒太主宰、選考委員の皆さまに心より御礼申し上げます。子どもの寝かしつけを終え日付が変わろうとしていた深夜に、受賞を知らせるメールを確認しました。妻にメールを見せ、疲れた体のまま二人で喜んだことを覚えています。今年の六月に第一子が誕生しました。今回の応募作は、妻の妊娠から息子の誕生までを連作として編んだものです。妻の妊娠や出産。そんな初めての経験からくる喜びや不安を、俳句として日記のように残せていることは俳人ならではの特権だと思います。
昨年三月に炎環に入会させていただいて以来、炎環賞が大きな目標でありました。二回目の応募で受賞させていただいたことは至極恐縮であり、もちろん大変光栄です。ただ、今回の作品「風知草」で受賞できたこと、そして炎環の皆さまに「風知草」を読んでいただけることがとにかく何よりうれしいのです。今は、子が成長していく素直な喜びを詩として昇華することの難しさに直面しています。句作の新たな広がりを皆さまに見せられるよう、今後も研鑽してまいります。
主宰をはじめ炎環の、特に千葉句会、流山ざくろ句会、Sara 句会の皆さま、そして「風知草」を授けてくれた妻と息子に感謝を申し上げて擱筆いたします。