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夏の俳句大全
季語・作り方から作品まで徹底解説!

『夏の俳句大全』へようこそ!
このページでは、夏の俳句や季語を紹介し、それぞれの意味や背景について詳しく解説しています。また、俳句の作り方やアイデアも掲載しており、初心者から上級者まで楽しめる情報が満載です。季節感あふれる俳句を楽しむためのヒントを見つけて、ぜひ自分だけの夏の一句を詠んでみてください。

夏の俳句とは?

夏の俳句は、夏に特徴的な自然、風物を通して、夏という季節の情景や感情を表現する定型詩です。ここでは夏の俳句の特徴や有名な俳人による句をご紹介します。

夏の俳句の特徴

俳句は、季節の自然や風物を詠むものです。
そこでまず、「夏」は他の季節と何が違うのか考えてみましょう。
思い浮かぶのは、「暑さ」や「強い日差し」、「生き物の活発さ」などでしょうか。
こうした季節感を感じられることが、夏の俳句の特徴といえます。

俳句は五・七・五という短い詩なので、一度にたくさんのことは述べられません。
ですから、一句に一つだけ季節の言葉を入れて、その言葉に一句の季節感を代表させます。その季節の言葉が「季語」です。

有名な夏の俳句

夏を表現しようとして、実際にどのような俳句が詠まれてきたのでしょうか。
ここでは、夏を詠んだ有名な俳句をいくつかご紹介します。

俳句 季語 作者
(しづか) さや岩にしみ入る蟬の声 松尾芭蕉
五月雨や上野の山も見あきたり 五月雨(さみだれ) 正岡子規
映りたるつつじに緋鯉現れし 緋鯉(ひごい) 高浜虚子
向日葵の空かがやけり波の群 向日葵(ひまわり) 水原秋櫻子
蟇誰かものいへ声かぎり (ひきがえる) 加藤楸邨
葉桜のまつただ中へ生還す 葉桜 石寒太
【俳句の世界をさらに広く】ほかにも、こんな有名な句が
俳句 季語 作者
雲の峰一人の家を一人発ち 雲の峰 岡本眸
マヨネーズおろおろ出づる暑さかな 暑し 小川軽舟
自転車を止めれば流れ夏の河 夏の川 守屋明俊
針・刃物・鏡・ひかがみ熱砂越ゆ 熱砂 小檜山繁子
かたつむり甲斐も信濃も雨の中 蝸牛(かたつむり) 飯田龍太
夏草に汽罐車の車輪来て止る 夏草 山口誓子
ねむりても旅の花火の胸にひらく 花火 大野林火
ぐんぐんと山が濃くなる帰省かな 帰省 黛執
サイダーの泡のあはひに泡生まれ サイダー 柳生正名
アイスクリームおいしくポプラうつくしく アイスクリーム 京極杞陽
尖るもの身になくなりし藍浴衣 浴衣 藤田直子
サンダルを脱ぐや金星見届けて サンダル 櫂未知子
水に入るごとくに蚊帳をくぐりけり 蚊帳(かや) 三好達治
何かしら昼寝のなかに置いてきし 昼寝 大高翔
端居してただ居る父の恐ろしき 端居(はしい) 高野素十

夏の季語について

俳句は、一句に季語を一つだけ入れることが約束事になっています。ここでは、夏の季語が使える時期や、代表的な季語をわかりやすくご紹介します。

夏の季語が使える時期は?

夏の季語は、暦の上での「夏」にあたる期間に使われます。一般的に、日本の季節の区分は二十四節気(にじゅうしせっき) に基づいており、夏の始まりは「立夏(りっか) (5月5日ごろ)」、秋の始まりは「立秋(りっしゅう) (8月7日ごろ)」とされています。
実際には、立夏から立秋の1~2週間後までが、夏の季語を使う時期となります。

夏の季語が使える時期の目安

代表的な夏の季語

夏の季語を、自然、行事、食べ物などのカテゴリに分けて一覧でご紹介します。言葉から季節を感じ取り、俳句づくりにお役立てください。

カテゴリ 季語
気象・
自然現象
青嵐、 夕立、 雲の峰(入道雲)、 暑き日、 短夜(みじかよ)、 暑し、 虹、 雷、
梅雨、 五月雨(さみだれ)、 炎天、 熱帯夜、 極暑、 熱風、 夕焼
地理 夏の海、 夏潮、 夏の川、 夏の山、 滝、 泉、 清水、 滴り、 熱砂
動植物 蟻、 金魚、 蚊、 鵜、 緋鯉、 (ひきがえる)蝸牛(かたつむり)、 蛍、 蟬、 青葉、 夏草、
葉桜、 薔薇、 紫陽花(あじさい)、 百合、 睡蓮、 向日葵(ひまわり)、 蓮、 胡瓜
行事・習慣 祭(夏祭)、 肝だめし、 夜釣、 更衣(ころもがえ)、 花火、 西瓜割り、 林間学校、
プール、 海水浴、 海開き、 夏休み、 帰省
食べ物・
飲み物
ソーダ水、 サイダー、 ラムネ、 アイスティー、 アイスコーヒー、
麦酒・ビール、 冷麦、 冷し中華、 冷奴、 心太(ところてん)、 かき氷、 アイスクリーム
衣服 夏服、 白服、 浴衣、 レース、 半ズボン、 夏シャツ、 開襟シャツ、
アロハシャツ、 白靴、 サンダル、 ハンカチ、 すててこ、 甚平、 水着
生活 蚊帳、 ハンモック、 跣足(はだし)、 汗、 昼寝、 裸
暑さ対策・涼感 団扇(うちわ)(おうぎ)、 香水、 扇風機、 風鈴、 打水、 噴水、 涼し、 (すだれ)葭簀(よしず)、 端居、
涼風、 暑気払い、 冷房
【知って楽しい俳句の豆知識】『涼し』は夏の季語!?

暑い夏が過ぎて、涼しい秋が来るのですから、「涼し」は秋の季語のように思われますが、実のところ「涼し」は夏の季語なのです。

逃げようのない暑い夏をいかに涼しく過ごすか、ここに日本人は古来さまざまな工夫を懲らしてきました。いまでこそ、どの建物にも冷房装置が付いていて、その室内に入れば涼しく過ごせますから、そんな昔のことは想像するしかありません。

上の季語群をよく見れば、「涼し」を感じるための具体的な工夫が、実にたくさん含まれています。「涼し」は、肌ばかりでなく、舌で、目で、耳で、あらゆる感覚を使って感じ取るものだということがよくわかります。

夏の季語を解説

夏の季語をピックアップし、それぞれの言葉が持つ深い意味や背景を探ります。日本の夏をより一層楽しむために、季語に込められた情緒や風景を感じてみましょう。

青嵐(あおあらし)

青嵐のイメージ

「青」と「嵐」とが組み合わさった語。まず「嵐」のほうから見ていくと、「嵐」と言えば今では暴風雨をイメージしますが、古文の「嵐」に雨はなく、もっぱら強い風を意味します。
では、「青」は何を意味するのか。これは青葉の「青」です。
ですから、「青」と言っても、色彩を正確に言えば緑です。木々の緑と強い風とを合わせた「青嵐」とは、つまり、青葉の生い茂った木々の葉や梢を揺らして吹く強い風のことです。
ところで、春に吹く強風を春疾風(はるはやて)と言い、春の季語となっています。この春疾風は、それに向かってなかなか前に歩けないほどの強風という、風の強さに重点が置かれています。
一方、「青嵐」は、必ずしも風の強いことを強調するものではありません。むしろ、青々と茂っていく植物と、そこを力強く吹き抜ける空気と、そのような自然界全体の、夏の生命感やエネルギーのようなものに重点が置かれています。

例句
  • 青嵐ことばの翼たてなほし  
    石寒太(『以後』より)
  • 青あらし輪廻千回のち光  
    関根誠子(『瑞瑞しきは』より)
例句の解説

人は「ことば」をもって、鳥は翼をもって、世界を飛び回る。だが、ときには思うように飛べないこともある。しかし、見よ、植物たちの生命力を。我も翼を立て直し、ふたたび風に乗って飛び立とうではないか。石寒太の句からは、そんなメッセージが伝わってくるようです。

そして、さらに抽象的なのが関根誠子。「輪廻」とは、生きているものが死ぬとまた別のものに生まれ変わり、それを永久にくり返すという仏教の考え方。それを千回くり返した先に、光がある。……と言われても、ねえ。でも、眼前の「青あらし」こそが、その「光」なのだと、そう考えるとちょっと魅力的かも。


金魚(きんぎょ)

金魚のイメージ

金魚を知らない人はほとんどいないと思いますが、問題はこれがなぜ夏の季語なのか、ということ。このことは、金魚すくいを思い起こすとピンとくるでしょう。
子供のころ、縁日などで金魚すくいをしたのは、たいてい夏でした。実は、売られている金魚のすべては養殖で、3月から5月が産卵期、それが育って出荷されるのが6月から8月なのです。
金魚は昔から、暑い夏に涼しさを演出してくれる存在でした。昔は、金魚玉という丸いガラスの容器に金魚を入れ、これを軒下などに吊るしたそうで、見た目に涼しげであったでしょう。
また、金魚の中でも琉金は、色も姿も美しく、特にひらひらした尾びれ背びれが優雅で、水槽の琉金を見つめていると暑さを忘れます。金魚は夏にピッタリ合います。

例句
  • 眠れぬ夜金魚の貌の大きすぎ   
    一ノ木文子(『遊びの途中』より)
  • 目覚めては金魚の居場所確かむる  
    岡田由季(『犬の眉』より)
例句の解説

一ノ木文子は、暑くて寝苦しい夜、水槽の「金魚の貌」がやたらと気になります。蘭鋳(らんちゅう)か出目金か。昼間、自分が動き回っているときにはほとんど気にもとめない水槽の金魚なのですが。

岡田由季の句も、熟睡できずに何度も目覚めるようで、そのたびに金魚の居場所を確かめると言っています。金魚は、かってに走り回ったり飛び回ったりせず、必ず水槽の中にいるので、それをわざわざ確かめるまでもないのですが、なぜか辺りが寝静まっているときにばかり気になるのが、金魚なのです。


季語の解説はいかがでしたでしょうか。季語解説をもっと読みたい方は、「春夏秋冬の季語解説」ページもぜひご覧ください。作品に季節感を加えるためのヒントがたくさん詰まっています。

夏の俳句の作り方

さあ、夏の俳句を詠もう!
と言われて、困っている方はいませんか?

学校の宿題や仕事の付き合いで急に俳句を作ることになったら、何をどうすればいいのか分からなくなるものです。
でも大丈夫!俳句は、ちょっとしたコツをつかめば誰でも「俳句みたいなもの」を作れるようになります。 ここでは、俳句の基本から、夏の俳句を作る具体的なステップまで、分かりやすく解説します。

①そもそも俳句とは?

俳句は「五・七・五」の17音で作られる日本の伝統的な詩の形式です。 有名な俳句の例として、松尾芭蕉のこの一句があります。

  • ふるいけや・かわずとびこむ・みずのおと
    (古池や蛙飛びこむ水の音)

このように、五音・七音・五音のリズムで構成されているのが俳句の特徴です。
ふだん日本語を使っている人なら、「五・七・五」は、その気になればけっこうできるものです。
ただし、「五・七・五」だからといって何でも俳句になるわけではありません。

例えば、

  • とびだすな・くるまはきゅうに・とまれない

これは「五・七・五」ですが、俳句ではありません。
俳句であるためには、もう一つのポイントを押さえておく必要があります。
それは、季語を1つ入れること。「五・七・五」と「季語ひとつ」、いまはさしあたり、この二つだけ考えればOKです。

②俳句に入れる季語を決めよう

俳句を作るうえで一番のコツは、まず先に「季語」を1つ選ぶことです。季語とは季節を感じさせる言葉のことで、夏の俳句を作るためには、夏の季語を使います。さまざまな季語がありますので、季語一覧を一度見てみるとよいでしょう。

特に俳句初心者の方が季語を選ぶ際には、イメージしやすく具体的なものを選ぶのがポイントです。たとえば「夏」も季語ですが、この一語だけでは内容の範囲が広く、中身が漠然としていて、話の焦点を絞りにくいですし、「暑し」という季語はからだに直接的な感覚であるため、暑い以外にはもうほかに何も言うことなし、という感じになってしまいます。

その点「ひまわり」ならば、実際に咲いているひまわりを見れば、そこで何か自分なりの感想が湧いてくることもあるでしょうし、いま目の前にひまわりがなくても、それを見たときの体験を思い出すこともできるでしょう。たとえば、以下に例を示してみます。

ヒマワリのイメージ
  • ひまわりはいつも幸せそうな顔をしているようにも見えるし、脳天気なようにも見える
  • あいつが会社を辞めると言ったとき、そこにひまわりが咲いていたけど、そういえばなんだか暑い夏だったよなあ

実際に見たことがある、心に残っているような身近な季語を選ぶと、俳句がぐっと作りやすくなります。もし季語選びに迷った際は、「具体的で、何かを語りたくなるような季語」を選ぶことを意識してみましょう。

③実際に俳句を作ってみよう!

上記のエピソードを「五・七・五」に当てはめて「俳句みたいなもの」にしてみましょう。

  • ひまわりは幸せそうで脳天気
  • ひまわりよあいつ会社を辞めるのだ

これらは、いずれも「五・七・五」で「季語ひとつ」、少なくとも、俳句であるための最低限の条件は備えており、これでもう「俳句みたいなもの」として合格です。

俳句というと難しそうに感じるかもしれませんが、上記で紹介したステップを踏むだけで、不思議と形になっていくものです。この「俳句みたいなもの」作りは、始めてみるとけっこう楽しくて、季語を取り替えながら作っていけば、五つや十くらいはあっという間に出来てしまいます。ぜひ、色々な季語を取り入れて自分なりの俳句をつくってみましょう!

【もっと広がる俳句の楽しみ】 もっと俳句らしい俳句を詠むには?

どうせのことなら、もっと俳句らしい俳句を作ってみたいし、これが私の俳句ですって他の方に見せてみたい!と思った方はいませんか?
そう思った方に次のステップをご紹介します。

①たくさんの俳句作品を読んでみましょう

俳句はこれまでに星の数ほど作られています。とりあえず、目についたところから、手当たり次第に読んでみましょう。世間には、意味の分からない俳句もたくさんありますが、分からなければその場でパスしてかまいません。

いやしかし、手当たり次第と言われてもねえ、という方は、とりあえず、高浜虚子(きょし)という俳人のものから始めてみるといいでしょう。高浜虚子(1874~1959)は明治から大正にかけて俳句を大衆の中に広く普及させた人です。

虚子の句は比較的分かりやすく、これなら自分でも作れそうだと思うものに出会うこともあるでしょう。虚子の句なら、インターネットでもけっこう読めます。

ともかく、たくさんの作品を読むことの目的は、俳句の「雰囲気」を知ることです。虚子の句でも誰の句でも、ちょっと気に入った句があったら、どこかに書き留めておきましょう。

②『歳時記』を入手しましょう

やはり『歳時記』は俳句をやる上での必須アイテムです。しかも『歳時記』には、それぞれの季語に、その季語を使った例句が載っていますので、上の①も同時に行えます。

俳句を作るなら、まず先に季語を決める、そうすると作りやすいことは前に書いたとおりです。『歳時記』は、春・夏・秋・冬・新年と季節ごとに編まれているので、今が夏なら、夏のところをパラパラとめくっているうちに、自分でも俳句にできそうな季語が見つかるでしょう。

『歳時記』など、まだ購入するほどのものでもないと感じる方は、季語をインターネットで検索するという手もあります。ただ、これはやってみると意外と効率が悪く、パラパラめくる『歳時記』のほうがよほど楽ですから、やはり思い切って安いものでも一冊買いましょう。

その買うという行為が、意識を高めることにもなります。どれにしようかともし迷ったら、石寒太編『ハンディ版オールカラーよくわかる俳句歳時記』(ナツメ社)をお薦めします。

③句会に参加しましょう

俳句が上手になったら人に見てもらうことにしよう、という考えは大きな誤りです。俳句は、上手であろうが下手であろうが、人に見せることから始めるべきです。

人に自慢できる俳句を作りたいと思うのならば、まず、「俳句を書く」と「恥をかく」は同じことだと考えてください。そして、見せる相手としては、俳句がよく分かっている人を選ぶべきで、そのためのシステムが句会です。

とりあえず「俳句みたいなもの」ができたら、恐れず句会に参加しましょう。句会がどのような場所であるかについては、「句会の魅力をご紹介」や「参加者の声・体験談」のページを参照してください。

「俳句みたいなもの」を「俳句」らしくしていくためには、自分の作品の優良な読者が必要です。優良な読者とは、師(結社の主宰)であり、句会の仲間です。

俳句を長くやっている人も、実は、「俳句みたいなもの」を「俳句」らしくしていくという作業を、くり返しくり返し行っているに過ぎないのです。しかし、やってみると、それがとてつもなく楽しく、それでいつまでもやめられないのです。

夏の俳句集

夏の俳句には、暑さや自然、風物詩を通じて季節感や情緒を表現した名句が数多くあります。ここでは、夏の俳句の意味や魅力をわかりやすく解説しています。さらに、炎環で活躍する同人の句を集めてみました。

一歩深く味わう夏の俳句

このコーナーでは、夏の俳句を丁寧にひも解き、言葉の背後に広がる世界や、句に込められた思いを解説していきます。

忘却の速さ夏霧ぐんぐんと

野﨑 タミ子(炎環同人)

解説
夏霧のイメージ

季語:夏霧

「忘却」と言うとどこか重々しいのですが、要するに、物忘れということ。歳をとったせいか、最近物忘れがひどくてねえ、とはよく人が口にするセリフで、「忘却の速さ」とは、物忘れがひどくなったことを格好良く言ったまでのことです。
言うまでもない注釈をあえて加えると、ここでの「速さ」は、速度という意味ではなく、なんて速いんだという感慨です。彼の仕事の遅さにはあきれる、と言うときの「遅さ」が、なんて遅いんだという感慨であるのと同じです。
この句は、この「速さ」と感嘆したところでいったん切れます。そして「夏霧」が現れます。
「夏霧」が夏の季語です。ただし「夏」を付けず「霧」とだけ言うと、これは秋の季語となります。
目に見えないほど細かい水滴が、煙のように立ちこめて地表を覆う現象。それは、気温の変化が大きい春と秋に多く現れますが、古来、秋のものを「霧」、春のものを「霞」と、言い分けてきました。
これが、夏でも、山間部や海上では多く発生し、それを「夏霧」と呼んでいます。ちなみに、これとは別に「夏霞」というのもあるのですが、その違いについて、霧は流れ、霞はたなびく、とだけ申し上げて、詳しい説明は割愛します。
さて、句に戻りましょう。この「夏霧」、とりあえず、これは山の中の霧としておきます。
その「夏霧」が「ぐんぐんと」、と書かれていますが、その先どうなるのかは書かれていません。おそらく、夏霧はぐんぐんと濃くなっていくのだと思われます。
なぜなら、霧が濃くなると、視界がどんどん狭くなり、やがて周囲は一面真っ白になるのですが、それがあたかも、忘却が進んで、記憶がどんどん失われていくというイメージと重なるからです。山の中の「夏霧」を、「忘却の速さ」といういくぶん自嘲的な表現で描いて見せているところがこの句の面白さです。

点々と影を置きゆく夏の蝶

武知 眞美(炎環同人)

解説
夏の蝶のイメージ

季語:夏の蝶

「点々と」とは、あちこちにいくつも点を打ったような状態であることです。たとえば、ハンカチに点々と染みが付いている、というように。
この句、ここに「影を置き」、あそこに「影を置き」、またあちらに「影を置き」、と点々と影を置いていくものがいる。その正体は「夏の蝶」。
「夏の蝶」が夏の季語ですが、「蝶」とだけ言うと、これは春の季語です。蝶といえば春であることは誰しも納得するでしょうけれども、実は、「夏の蝶」も「秋の蝶」も「冬の蝶」も季語として存在し、「夏」「秋」「冬」を頭に添えれば、けっきょく一年を通していつでも、蝶は季語として使うことができるのです。
とはいえ、そのイメージするところは、季節によってそれぞれ異なります。「夏の蝶」の代表格はアゲハチョウで、漢字では「揚羽蝶」「鳳蝶」と書き、これ自体も夏の季語とされています。
アゲハチョウは、春の黄蝶や白蝶に比べ、大型で、羽の形や色柄が派手、そのためか、飛んでいる姿が活発で躍動的に感じられます。「夏の蝶」と言ったばあい、必ずしも蝶の種類を特定してはいませんが、やはりこのアゲハチョウのイメージが支配的です。
するとどうでしょう。「点々と影を置きゆく」という表現から、「夏の蝶」の、高く昇っては地表へと降り、あちらこちらへと盛んに舞い飛んでいる様子が目に浮かびます。
さらにこの句は、「影を置き」という言葉が、夏の強い日差しをそれとなく感じさせるところが粋です。真夏の昼間、炎天下の地上にできる「影」には、たいへん貴重な価値があるのです。

もっと解説を読みたいと思った方は「面白い俳句」ページもぜひご覧ください。俳句の世界がぐっと広がり、俳句の面白さをより一層感じることができます。

炎環 同人句

同人とは、炎環の同人は、一般会員の中から、石寒太主宰がその実力を認めて推挙した作家たちです。同人句のなかから夏の俳句をピックアップしました。

俳句 季語 作者
子の部屋の般若の面や夏の月 夏の月 一ノ木 文子
診察の夫に付き添ふ半夏雨 半夏雨(はんげあめ) 鈴木 友寄枝
田植唄横一線のあとずさり 田植 万木 一幹
どろんこの体験学習若葉風 若葉風 香西 さらら
真夜中のバイク爆音夏来る (きた) 寺田 百合子
星空の星へ孤高の蛍かな 真中 てるよ
風吹けば武蔵野台地月見草 月見草 丑山 霞外
すれちがふ二人の話サクランボ サクランボ 前島 きんや
浅眠の夏至の朝や渋茶汲む 夏至 髙木 岳
片足の黄泉へ垂るるやハンモック ハンモック 永田 寿美香
竹林の葉ずれ涼しき音したり 涼し 三角 千榮子
出番待ち黄ばむ稚児(ややこ) や炎天下 炎天下 高橋 透水
花柄の日傘くるくる廻りをり 日傘 濵野 美芽

同人句をもっと楽しみたい方は、毎月更新される「ピックアップ同人句」をぜひご覧ください。

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