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句会レポート「洋洋句会 蓼科吟行」2018年6月

2018年7月22日 10:00

記:上山根 まどか

蓼科へ

中央道をひたすら西へ。サービスエリアにて

俳句結社「炎環」の「洋洋句会」では、年一回の吟行旅行が恒例となっている。六月某日、石 寒太主宰と二十名の参加者を乗せたマイクロバスは東京を出発し、一路長野県の蓼科へ。

朝はあいにくの雨模様だったが、中央自動車道の上野原あたりから夏霧が発生し、天気回復の予兆あり。甲府盆地には羽衣のようなやさしい霧雲がたなびき、バスが進むに連れ、吟行への期待が高まってゆく。

さて、洋洋句会は炎環の竹内 洋平さんが東京・調布市で運営している句座である。和気あいあいとした雰囲気を大切にしながら、初心者もベテランも分け隔てなく互いに切磋琢磨しているのがこの句会の特徴だ。なお、石 寒太主宰は隔月で参加され、会員の指導にあたっている。

私は事情により長い間句会というものから足が遠ざかっていたが、今回この吟行に同行させていただく機会を得た。

吟行とは、日常から抜け出した外の空間で、見たもの、聞こえた音、遭遇した出来事などから俳句を作ることだ。ひとりでも吟行はできるが、団体で参加すると、雑談を交えながら季節の移ろいを共有することができるので、本当に楽しい。

俳句ゲーム

出発から30分ほど経ち、おしゃべりやダジャレの掛け合い(?)も落ち着いてきた頃、前方の席から短冊(細長い用紙)が回ってきた。俳句ゲームがはじまる合図だ。

俳句ゲームの手順は、以下のとおり。

  1. 1. 短冊に、二文字のひらがなを書く。ただし季語は避ける。(例: やま ひる すき)
  2. 2. 短冊を別の誰かと交換する
  3. 3. 五文字分(季語)を空け、残りの十二文字で俳句をつくる。十二文字には、短冊に記載の二文字を含める。
  4. 4. 主宰が五文字の季語を適当に二つ選び、発表する
  5. 5. 4. の季語のうち、より良いと思うものを空欄に入れる
  6. 6. 短冊が集められ、主宰が一枚ずつ読み上げる。良い句だと思ったら挙手する。
  7. 7. 挙手が一番多かった句の作者が優勝。

マイクロバスの中では笑いが絶えない

主宰が選んだ季語は「夏館」と「桐の花」。
最高点は「白壁の薬問屋や桐の花 若葉(題:かべ)」。色彩が見えて、素直にいい句。
なかには「夏館イカの刺身の口移し 美穂(題:くち)」のような変な(?)句もあり、みんなで大爆笑。

季語が合うかどうかは運まかせなところが面白い。ただ、即興にもかかわらず、意外と良い作品が多かった。

俳句のことなどすっかり忘れ、気持ちがゆるんだ頃に、小テストのような俳句ゲームが突如はじまるのが、洋洋句会吟行旅行の名物だそうだ。ちなみに俳句ゲームにはいろいろあり、工夫すればいくらでも新しい遊び方を楽しめる。

二体の土偶

「縄文のビーナス」と「仮面の女神」

復元された縄文式住居

気がつけばバスは高原地帯を走っており、沿道に連なるヤマボウシの花に目を奪われる。きらきら光る水田が美しい。

ほどなくして茅野市の尖石縄文考古館へ到着。ここは二体の土偶が有名で、いずれも国宝。

「縄文のビーナス」は、ふくよかな線と愛らしい表情が特徴。見る者誰もがほっこりする。腹部は妊娠しており、安産を願うお守りのようなものだったと推測される。

一方「仮面の女神」は神秘的なシャーマン(祈祷師)の姿をしている。縄文時代後期は人々の生活が苦しく、子を間引く産婆だったのではないかとの説。

「仮面の女神」の説明をガイドの方から聞いた時、胸が潰れそうになった。女性でありながら子を間引く悲しみは、いかほどだったのだろう。祈祷師とひとりの人間としての葛藤が、仮面の中に隠されているような気がした。

なお、余談だが、最近は「縄文」にハマる人が増えているらしい。人間味に満ちた悠久の謎が、現代人の想像力を駆り立てるのだろう。

カジカ?春蟬?落とし文

信州そばに舌鼓

落し文

昼食は「蓼科そばメルヘン店」で本場の信州そばを堪能。私が注文した天ぷらそばは、地元の山菜がふんだんに使われ、ズッキーニ、かぼちゃ、なすなどの野菜も歯ごたえ十分。そして、真剣に見学をしたあとのビールが実に美味しい。

突然、窓の外から「ワワワワワ・・・」という音が聴こえてきた。
「あれはカジカ(蛙)ですかね?」
「いや、春蝉でしょ?」

意見は真っ二つに分かれた。白樺を通り抜けるにぎやかな音に、皆しばし聴き入る。

店先へ出ると「これ落とし文じゃない?」と誰かの声。葉を体に巻きつけて、ひっそりと枝からぶら下がっていた。

私は落とし文を見るのは初めてだった。他の参加者も、興味津々に集まってきた。夏の大自然は五感が大いに刺激されるので、楽しい。みんな子どものように、無邪気にはしゃいでいた。

御射鹿池

御射鹿池を背景に石 寒太主宰

晴れた御射鹿池は絶好の撮影スポット

空が暗くなった。黒雲へ近づくようにつづら折りを登り、ようやく到着した御射鹿池は残念ながら雨。恐ろしいほど静かな池は、水が酸性なので魚が棲めないらしい。東山魁夷の「緑響く」が生まれた舞台として有名だが、あまりにも静かで、響くという感じではない。

そのうちパッと晴れたので、池を振り返ったら見事な鏡面になっていた。自然界のものとは思えない、凄みのある美しさだった。

「先生、写真撮るのでこっち向いてください!」との呼びかけに、主宰ははにかみながら応じていた。カメラ目線より、自然体の姿で撮られるほうが好きらしい。

吟行では主宰はみんなから引っぱりだこだ。季語の質問に対して丁寧に解説してくださる。ダジャレも大好き。

久しぶりにお会いする主宰は、相変わらず飄々としていたが、周りの景色も人間もよく観察されているという印象だった。本当はもっとお話したかったが、こういうときに限って言葉がすらすらと出てこない。

渋温泉辰野館

歴史を感じる佇まい

宿の「渋温泉辰野館」に到着。信玄の隠し湯と呼ばれる温泉が有名。風情ある玄関をくぐり、吹き抜けの高いロビーでひと息つく。

ここからは自由行動。私は一人で温泉に入り、宿の周りを散歩した。

ある方が一人でいたので声をかけると「俳句が作れずに悩んでいる」と言う。ご謙遜だと思うが、とはいえ私にはその気持ちがよくわかる。吟行では感動する瞬間が多々あるが、言葉が気持ちに追いつかず、俳句が空回りしがちだ。また、次の日の朝食までに4句ほど作らねばならなかったが、夕食や飲み会などを差し引くと、句作にかけられる時間は意外と少ない。

俳句がパッと作れるようになれたら、どんなにいいかと思うが、これがなかなか難しい。

一日目の夜

私は翌日仕事があったため、大変残念だったがここで別れて帰京した。
以降は洋平さんから入手した情報を若干調整して掲載している。

薬湯から戻る途中の廊下

夕食では、山菜を中心にした豪華で食べきれない程の料理がふるまわれた。

食後はまた俳句ゲーム。洋平さんの新作だ。10名ずつ2チームに分けて、俳句手帳に記載されている有名俳句の、それぞれ各句の一部を隠して読み上げ、隠れている言葉を当てていく。基本的には一句ずつチーム交代で進めていくが、概ね苦戦した模様。書いたものを読むのに比べると耳で聞いただけではすぐ正解できず、逆に言うとふだん声に出して俳句を読む習慣があまりないことが分かった。

難しかったとはいえ結構盛り上がり、その後はW杯の日本-セネガル戦があったため、主宰をはじめほとんどの人がテレビにくぎ付けになった。

句会

車山高原の頂上

翌朝は朝食後に投句を済ませ、ビーナスラインを車山へ向かう。乗り慣れていないリフトに全員無事乗り降りし、快晴の頂上で集合写真をパチリ。

「ホテルハイジ」ではフルコースランチの後、芝生に出て各自選句、30分ほどして同じ部屋で句会を行った。句会結果は以下のとおり(一部のみ抜粋)。

主宰選: ◎特選 〇本選 △予選
数字: 互選得点
一部事前の兼題「夏帽子」「地」を含めた句あり。欠席投句あり。

「ホテルハイジ」でのくつろぎの表情

その後バスに乗り、「自由農園」で土産を買い、諏訪大社上社の御柱の「木落し坂」を見学した後、一路帰京。バスの中では差し入れのワインが振舞われ、最後はカラオケ大会に。

主宰からは「天候に恵まれて大変いい吟行だった、みなさんの句もいずれもその感動が現れていてよかった」とのお言葉をいただいた。

(了)

みなさまのご参加をお待ちしております